霧島にて1(中編)

 翌朝。大浴場でひと風呂浴びてから朝食です。ここは客室数が105室もあるので、さすがに大浴場へいつ行っても数名の客が入ってました。でも、洗い場は仕切り付きで十分な数がありますしお風呂も広々してるので、まったくノープロブレムです。
 朝食はブッフェスタイル。ものすごく品数豊富で、薩摩揚げや黒豚のソーキ、ワカサギのマリネに田芋の煮物、さつま汁といった薩摩料理のほか、ライブキッチンでオムレツもいただけます。ただ、とっても混雑するので開店と同時に飛び込みました。

 レストランの外はプール。なかなか良い景色ですが、天気が残念な感じ。

 今日は天孫降臨神話の聖地である高千穂峰に登ってみようと思っていました。
 高千穂峰は標高1,573m。なかなかの標高ですが、標高970mにある高千穂河原まではバスで行けますから、実際に登る標高差は600mほど。高校時代に天文観測でよく行った東京の御岳山よりも小さい(JR青梅線の御嶽駅は標高234mで、御岳山の標高は929m。)です。
 高千穂河原ビジターセンターのホームページを見ると、高千穂河原から高千穂峰山頂までは登りが2時間、下りが1時間半とありまして、ちょうどいい感じで午前11時半着、午後3時半発のバス便があります。インターネットの情報を見てみると、地元の小学生も遠足で登っているなんて書いてあるくらいだから、ちょっとしたハイキングかトレッキングってところじゃないかしら。

 ・・・こうやって、ネットの情報を鵜呑みにして大後悔することになるのは、数時間経ったあとのお話。

 食後はしばらくお部屋でゴロゴロしてから、10時半のバスでお出かけします。
 乗ったのは「霧島連山周遊バス」。丸尾からえびの高原を経由して高千穂峰登山口となる高千穂河原まで1日3便ほど運行されています。もちろん、一日乗車券が有効。片道¥860なので往復だとかなりオトクですね。

 終点の高千穂河原までは、ちょうど1時間ほど。バスを降りると正面に鳥居がありまして、その脇には昨年リニューアルオープンしたビジターセンターがあります。
 これができる前はボットン便所しかなかったそうですが、ビジターセンターにはウォシュレット付きのキレイなトイレもありましてもちろん無料で利用できます。便利な世の中になったものですねー。

 鳥居の向こうには霧島火山がそびえてます。頂上付近はガスってるみたい。一応雨に備えてレインコートは持ってきているけど、できれば使わないですむとありがたいです。

 鳥居をくぐってテクテクと歩いていくと、5分ほどで霧島神宮の古宮祉に到着。
 こちらは後でゆっくり参拝することにして、先に進みましょう。

 古宮祉の右手に高千穂峰への登山道の入口がありました。
 見た感じ、森の中の散歩道みたいな雰囲気ですねー。

 林を抜けると、石段。いよいよ山登りらしくなってきました。

 藪の中に続く石畳の道。さすがにちょっと息が切れ始めます。日頃の運動不足がこたえますな。

 やがて、石畳が姿を消して、火山灰と岩がゴロゴロする山道になりました。
 こんなこともあろうかと、普段使いの街歩き用の靴とは別にくるぶしまで覆うトレッキングブーツを持ってきていたのですが、マジで正解でした。普通のウォーキングシューズなんかじゃとても進めません。

 突然、藪が姿を消して目の前にはゴロタの斜面が姿を現しました。思わず、絶句。
 斜面はかなり急角度でして、しかも遮るものがないので風もかなり強め。そして延々と続く岩の斜面・・・
 思わず「ワタシ、帰る。」って言いたくなりました。

 よく見ると、岩のところどころに黄色のペンキが塗ってあります。登りやすそうなルートを教えてくれているっぽいんですけど、それでも一歩間違えれば真っ逆さまに落っこちそうな急斜面。しかも標高が高くなるにつれて息苦しさも増してきます。数メートル上がるごとにひと休みって感じでしたね。
 どこが「小学生の遠足」レベルなんだか。

 40分ほどかけてようやく岩場を登りきると、御鉢と呼ばれる霧島山の火口沿いに歩きます。しばらく平坦な感じなのでホッとします。

 右手は噴火口。たまーに滑落事故もあるっぽいです。

 馬の背と呼ばれる細い道。幅は1.5mほどあるので危険は感じませんでしたが、これ以上風が強かったり霧が濃くなると危ないかも。

 火口の縁を抜けて、いったん下り坂。高千穂峰に向かう途中の脊門丘(せとお)にあるのが、霧島神宮の元宮。山岳信仰の神社だった霧島神宮の発祥の地がここなんですね。

 元宮を過ぎれば高千穂峰山頂はもうすぐなのですが・・・足元の悪い急な登り坂が延々と続きます。
 途中でヘバって休んでいると、すれ違ったおばちゃんから「あと20分もかからないから。」と励まされちゃいました。日本のオバちゃん、元気です。

 しばらく進むと、ところどころ残雪があります。気温は1℃あるかないかってところでしょうか。ワタシはヒートテックインナーを来ていてさらに念のためダウンジャンパーも持ってきていたので平気でしたが、たまたま途中で一緒になったベテランのおじさん(何度も来てるって言ってました。)はうっかり夏山装備で来ちゃったそうでして寒い寒いとこぼしてました。

 ようやく高千穂峰山頂に到着。スマホを見ると、高千穂河原から1時間40分程度かかっていました。
 所要時間的だけを見ればハイキングレベルですけど、決して気軽に登るレベルじゃなかったですねぇ・・・
 インターネットの情報を鵜呑みにすると、マジで命にかかわるってことがよく分かりました(笑)

 その山頂にぶっ刺さっているのが、天逆鉾。イザナギとイザナミ(天照大神の両親ですね。)が天沼矛(アマノヌボコ)を手にして「許袁呂許袁呂(コヲロコヲロ)」と海をかき混ぜたあと矛を持ち上げたときに滴ったのが淤能碁呂島(オノゴロ島)、後の日本だそうなのですが、その天沼矛がこの天逆鉾だと言われています。もっともホンモノは大昔に噴火で折れてしまい(折れた刃は島津家に献上された後に行方不明となり、地面に刺さった柄はそのまま残っているといわれてます。)、現在のものはのちに誰かが作ったレプリカなんだそうですが・・・ホンモノなら三種の神器に匹敵するシロモノでしょうね。
 そんな国生み伝説の聖地、そして天孫降臨神話の聖地がココ。天逆鉾と向き合ったとたん、一瞬ですが霧が晴れて青空を見せたのは偶然なんでしょうか?

 青空は一瞬で、再び山頂は霧に包まれました。晴れていれば霧島連山の最高峰である韓国岳や絶賛噴火中の新燃岳はもちろん、桜島や開聞岳まで見渡せる絶景が広がるっぽいんですけど、今日は何も見えません。
 山頂は当然何も遮るものがないので、ひたすら冷たい強風が吹き付けています。でも、ヒイヒイ言いながら登ってきたところなので、その冷たさがなんとも気持ち良いです。
 しばらくのんびりしていたら、続々と登山客がやってきます。中には御年74歳というご夫婦もいてツーショットを撮ってあげながら話をしたのですが、「明後日は開聞岳に登るんです。」なんて言ってました。元気だなー!

 神聖な天逆鉾ですが、歴史上コレを引き抜いて大笑いしたという人物がいます。それが、坂本龍馬夫妻。
 坂本龍馬は慶応2年(1866年)の3月から4月にかけて、妻のお龍と霧島温泉へ湯治に出かけています。日本で最初の新婚旅行と言われるものですが、その際に夫婦で高千穂峰に登ったようでして、その様子を姉の乙女への手紙(麓の高千穂河原ビジターセンターで解説付きの写真がパネル展示されているほか、ネット上の青空文庫にも収録されています。)で綴っています。
 オイラですらヒイヒイ言いながら登ったこの山に、ロクな靴もない当時女連れで登ったなんて信じられませんが、「どふも道ひどく、女の足ニハむつかしかりけれども」と言いながらも無事登頂し、そこにあった天逆鉾を見て「おもいもよらぬ天狗の面があり(げにおかしきかおつきにて)、大ニ二人りが笑」って、「此サカホコハ少シうごかして見たれバ、あまりにも両方へはなが高く候まま両人が両方よりはなおさへてヱイヤと引抜き候時ハわずか四五尺斗のものニて候間又又本の通りおさめたり」だそうです。この夫婦、すごすぎますねー。

 さて、そろそろ戻りましょう。
 火口のあたりまでは比較的スイスイと戻れますが、例の岩場は下りも一苦労。坂本龍馬も例の手紙の中で「此間は山坂焼石斗、男子でものぼりかねるほどきじなることたとへなし。やけ土さらさらすこしなきそうになる。五丁ものぼれバはきものがきれる」って書いてあるほどです。あのスーパーマンでも「なきそうになる」んだから、オイラがヒイヒイ言うのも当然か。

 帰りは1時間ほどで古宮祉まで戻れました。
 さて、帰りのバスまで時間もあるし、古宮祉を参拝してみましょうか。

 古宮祉は再整備されたとは言っても建物はなく、昨日行った山神社とどっこいどっこいの神籬って感じです。なぜかワンカップ大関が置いてあるのが笑えます。

 片隅にはこんな石碑も。
 昨日参拝した霧島神宮ですが、元々はさっき登ってきた道途中の元宮にあったみたいです。ただ、場所が場所だけに、西暦788年に噴火で焼失。950年頃に再建されたのがこの古宮祉です。しかし、1234年の大噴火でこちらも焼失。その後1484年に再興されたのが現在の霧島神宮だそうでして、それゆえにこの古宮祉も霧島神宮の飛び地境内とされているみたいです。古宮祉は長らく「跡地」として荒れるがままだったようですが、皇紀2600年(昭和15年)に記念事業として聖跡地として再整備されて現在の姿になったんだとか。
 日本古来の山岳信仰とその後の神道や記紀神話との関係が、ほんとによく顕れてるなーと思います。

 無事に高千穂河原に戻りました。いつの間にか、山の上のほうにあった雲もとれているみたい。今だったら山頂からの眺めもいいんだろうなー。
 ビジターセンターのトイレを借りた後のんびりと外で日なたぼっこしながら休憩しているうちにバスのお時間。夕方、予定どおりにホテルに戻りました。

 さっそくひとっ風呂浴びてサッパリしてから、無料で振る舞われる肉まんをパクつきます。
 他の系列店もそうですけど、ココも無料サービスがとっても充実しています。風呂上がりにはアイスキャンディーや乳酸菌飲料が無料。そして夕方には肉まん、深夜にはラーメンが無料。そしてフロントではコーヒーも飲み放題。サイフを気にしがちな小市民のワタクシにはとってもありがたいですねー。

 さて、そうこうしているうちに夕食のお時間。連泊2日目の夕食は和食もチョイスできたみたいですけど、ワタクシは洋食にしました。もちろん、昨夜とは別メニューです。
 食前酒はりんごのカクテル。

 オードブルはサボイキャベツと魚介のファルシ。サボイキャベツっていうのはちりめんキャベツとも呼ばれるヨーロッパではメジャーな野菜のようです。白ワインにピッタリの一皿でした。
 パンとともに出てきたパスタはペンネのボンゴレ。スープはきのこのポタージュ。濃厚なきのこの香りがとっても美味。
 魚料理はブイヤベース。これまたスープがとっても美味しいんですよねー。
 サラダに続いて肉料理は牛フィレのステーキ。さすがに東急やプリンスホテルで出てくるようなとろけるお肉とはいかず、食いでのある感じでした。昨日みたいにメインを選べたらステーキは選ばなかったけど、今日は選択肢がなかったので仕方ない。
 デザートとコーヒーでひととおり。ごちそうさまでした。

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