伊香保にて1(前編)

 今朝の北関東は曇り。昨日の雨がまだしつこく残っている感じで、しばしばパラっと降ってるみたいです。

 そんな今日は、お泊りグッズを携えていざいざとお出かけです。
 向かった先は伊香保。
 北関東に住むようになって近郊の温泉地はけっこう回ってるワタシですが、なぜか縁がなかったのが伊香保です。
 お家からは国道50号で伊勢崎へ。そこから国道17号BP上武道路で渋川へ行き、渋川からは群馬県道33号線で20分ほど。お昼前にお家を出て、到着したのは午後1時過ぎ。思った以上に早く到着しちゃいました。

 お宿の駐車場にクルマを置かせてもらって、向かった先は石段街。
 万葉集にも詠まれているというから相当古くから知られていたようですけど、伊香保温泉のシンボルとも言える石段ができたのは戦国時代。長篠の合戦でボロ負けした武田勝頼が負傷兵の湯治のために真田昌幸に命じて整備させたのがこの石段街の始まりと言われています。この上州辺りは戦国時代には武田氏に仕えていた真田氏の支配地域でしたから、石段が整備されるまではいわゆる「信玄の隠し湯」のひとつだったんでしょうかね。
 草津温泉と違って江戸時代にはさほど目立たない存在(といっても嘉永4年(1851年)の「諸国温泉功能鑑」では「上州湯川尾」(伊香保の当て字)が前頭4枚目に入ってます。)だったみたいですけど、東京からの近さや隣接する榛名湖・榛名山が避暑地として文人墨客に愛されたことから明治期以降に急速に発展。渋川から路面電車が開通し、御用邸までできちゃったそうです。

 今では伊香保温泉のシンボルとも言える石段街。石段の両脇には温泉宿や射的場、飲食店や土産物店などが軒を連ねていて、「古き良き温泉街」といった佇まいです。石段の途中には、石段に沿って流れる温泉を宿に引き込む「小間口」があって、ガラス張りで見物できるようになっています。

 この石段は全部で365段ありまして、その頂上にあるのが伊香保神社。一応延喜式では「名神大社」だったようなのですが、見た感じはこぢんまりしていてそれほど御利益があるようには見えませんねぇ・・・
 

 伊香保温泉の裏手からも道が続いていて、伊香保温泉の源泉まで続いています。その途中にあるのが、宣伝ポスターで有名な河鹿(「かじか」と読みます。)橋。宮崎駿の「千と千尋の神隠し」にも登場した聖地巡礼スポットですね。
 もうちょっとすれば紅葉に彩られて見事なんでしょうけど、青々とした楓と赤い橋とのコラボもなかなかです。

 道のどん詰まりにある源泉のちょっと手前にあるのが飲泉所。

 こんな感じでコップがあって温泉を飲めるみたいです。さすがに時期が時期なのでコップはやめて手ですくって飲んでみたのですが、かなり鉄の味が濃い感じでした。実際、伊香保温泉は鉄分が多く、湧出後に空気に触れると鉄分の酸化により「黄金の湯」と呼ばれる独特の茶色っぽい色に染まるんだとか。

 飲泉所より先に進むと源泉。ガラス張りでお湯の湧き出すところを見学できるほか、日帰り入浴施設「伊香保露天風呂」もあります。帰り道で湯冷めしそうだったので入らなかったけど

 源泉から伊香保神社に戻った後は、石段を下りずに山肌に沿っててくてくとお散歩。賑やかな石段街と違って山側には御用邸跡などがある静かな散歩道なのですが、道沿いには潰れた大型旅館の廃墟がいくつもありました。
 社員旅行などの団体旅行華やかなりし時代にはさぞかし賑わったのでしょうねぇ。でも無理を通せば道理は引っ込む。もともと湧出量が少なく石段沿いの10軒に権利が独占されている伊香保の湯が急増した大型旅館に回るはずもなく温泉偽装問題を引き起こしたり、果ては大勢の「おじさん」観光客を相手にした人身売買や管理売春なんて事件も起きたりしているうちに、団体旅行は廃れて個人旅行中心の時代がやってきます。そんな古き時代の夢の跡がまさにコレ。
 鬼怒川温泉も似たような光景がありましたけど、そのまま取り壊すことすらままならずに放置されていた鬼怒川と違って、伊香保では取り壊しがあちこちで行われていたのが救いかな。興醒めですからねぇ・・・。

 やがて到着したのは、伊香保ロープウェイの不如帰駅。場所は伊香保バスターミナルのすぐ近くです。
 4階建てのビルの4階にチケット売り場と乗り場がありまして、自販機で往復券¥830ナリをお買い上げして乗り場へ。運行時間は朝9時から夕方5時まで。15分間隔で運航しています。
 約4分で、標高約750mの伊香保温泉街から標高約955mの物聞山にある上ノ山公園まで運んでくれます。

 山頂の見晴駅には、伊香保スケートリンクや展望台などがある上ノ山公園があります。トコトコと展望台に行ってみると、ご覧のとおり、素晴らしい眺めが・・・

 な~んにも見えませんでした。

 真っ白しか見えなかった展望台からはさっさと引き返して再びロープウェイへ。見覚えのある往路の客とともに麓に戻ります。

 伊香保バスターミナルを通過して向かった先は、竹久夢二伊香保記念館。
 竹久夢二は明治末期から昭和初期にかけて活躍した画家と言われることが多いですが、いわゆる「絵画」にとどまらず児童書などの装丁や広告などのイラストなども多く手がけてましてイラストレーターといった方がしっくりくるヒトだと思います。
 少女からのファンレターをきっかけにして(←こういうファンレターが来るあたり、今でいうタレントみたいな感じだったんでしょうね。)伊香保や榛名を知り、晩年には榛名湖畔に「榛名山美術研究所」の建設構想を抱くほどこの地に惚れ込んでいたようでして、その遺志を受けた夢二の研究家が建設したのがこの記念館ということのようです。
 入館料は¥1,800と少々値が張りますが、鬱蒼とした森の中に建つ洋館で過ごす静かな時間はそれだけでもお値段以上の価値があるかと。もちろん夢二作品も多いですが、大正時代のレトログッズも所狭しとあるほか、毎時30分には1900年前後に制作されたクラシックオルゴールの演奏(10分ほど。)も行われています。ワタシが訪れたタイミングでは、教会のようなホールで係員によるピアノ演奏も行われていて、ちょっとオトクな気分でした。
 3階には喫茶室もあるようでしたが、残念ながらコロナ禍ゆえか閉店中でした。こういう洋館でいただくコーヒーって美味しいんだろうなぁ~

 夕方になったのでお宿へ。
 今回泊まるのは「洋風旅館ぴのん」さん。

 アサインされたのは、地下1階にあるシングルルーム。「洋風」というとおり、お部屋はビジネスホテルのようなベッドルーム。15平米とこぢんまりしていますけど、オットマン付きのシングルソファやローテーブルなんかもあったりして一人なら十分くつろげます。

 水回りは普通のビジネスホテルタイプのユニットバス。もちろん温泉があるので浴室は使いませんでしたけどね。個人的には洗面所とトイレを独立させた上で浴室の代わりにシャワーブースを設けてほしいけど、スペース的にキビシイかな。

 やや大き目のライティングデスクには、テレビのほかこんなコーヒーセットもあります。陶器のマグカップやドリップポッド式のコーヒーがあるのは嬉しいサービス。ティーバッグの紅茶もおいしかったですよん。

 この「ぴのん」のお風呂は、大浴場はなく、小さめ(といっても2人くらいは悠々足を延ばして入れるくらいの大きさはありますが。)の貸切浴室が4つあります。うち2つが「黄金の湯」、そしてもう一つが「白銀の湯」を使ってまして、利用状況は各部屋にあるタブレットでリアルタイムに確認できるようになってます。予約はとっていないので、タブレットで空きを確認して入りに行く感じですね。全20室の小さな宿なので、夕方とか朝といったピークの時間帯でなければどこかは空いている感じでした。

 せっかくなので「黄金の湯」と「白銀の湯」の両方に入ってみました。「黄金の湯」はいかにも「温泉!」って感じで気持ち良かったですけど、「白銀の湯」の方は・・・「温泉?」って感じで。おうちの水道水のお風呂とどこが違うかよく分からず。
 もともと伊香保は黄金の湯しかなかったのですが、それとて湧出量は限りがありまして。余った温泉を大量に捨てていてその酸性濃度ゆえに中和処理施設まで必要となった草津温泉とはえらい違いですがそれはさておき、源泉の権利を有するのは石段沿いの10軒だけ。じゃあそれ以外の旅館はどうするかというと、権利を持つ10軒からもらい湯しているわけです。「ぴのん」や「松本楼」ももらい湯組なのですが、それとて量が限られているので13軒だけみたい。
 一方で伊香保温泉は40軒以上の旅館があるわけですが、もらい湯組を入れても数が合わないですよね。温泉宿が増えすぎてお湯が足りなくなったためになんとかしようと平成8年に掘り出したのが「白銀の湯」。一応、含有成分が温泉法上の基準を上回っているので「温泉法2条の温泉」となっているのですが、温泉特有成分は非常に少なく「井戸水と変わらない」のが実際のところみたいです。
 というわけで、黄金の湯があるお宿であれば素直にそっちを楽しんでおけば十分みたいです。

 さて、お風呂のあとはお楽しみの夕食タイム♪
 昼はランチも営業しているというレストランでいただきます。
 ドリンクは「おすすめワイン3種セット」¥1,760ナリ。このレストラン、ハウスワインも1杯¥800ほどとかなりリーズナブルな価格設定なのですが、3杯でこのお値段とは嬉しすぎます。もちろん、「おすすめ」というだけあって美味しいワインでしたよ。

 前菜は「地場大岩魚と秋刀魚の自家燻製、チャーシューとマコモ茸のゼリー寄せ、彩りピクルス」。スモークがしっかりと感じられる燻製、そしてピクルスも美味しかったなぁ~。ゼリー寄せもスモークサーモンが巻いてあってワインのお供にぴったりでした。いきなり白ワインをカラにしてくれる一皿です。
 スープはたっぷりの野菜とベーコンの塩味が美味。そして温かいお皿でサーヴされたパンはくるみパンでした。パンのほかに蒸しパンかご飯も選べるらしく、それに合わせてスープも変わるっぽいです。
 魚料理は「白スズキとホタテのドーム、香草サラダのブーケ添え」。ロゼワインと合わせてくださいってことでしたけど、確かに甘いロゼの香りとバターのソースとの相性がぴったりでした。
 口直しのグラニテを挟んで、肉料理は「上州牛ヒレ肉のローストマデラソース、じゃがいもときのこのガレット添え」。このローストがほんとに絶品でした。そして付け合わせの茄子もおいしかったなぁ~
 デザートは「榛名牛乳のなめらかプリン」に「林檎のタタン風」、そしてシャインマスカットとイチジク。あとはコーヒー(紅茶も選べます。)でひととおり。全体的に軽めのコースなので、濃厚なプリンもそれほど重くは感じませんでした。美味しかったです!

カテゴリー: 旅行<東北・関東甲信越・東京離島>, 食べ物 パーマリンク

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