十三の冥府

 昨日の雨の影響か、今朝は暖かい朝になりました。そうは言っても、もはやマフラーや手袋は欠かせないですけどね。

 鬼怒川で読んだ「君の名残を」に続いて最近読んだのが、こちらの「十三の冥府」。内田康夫さんの大人気シリーズである浅見光彦シリーズのひとつでして、今回は東日流外三郡誌(「つがるそとさんぐんし」と読みます。作中ではさすがに実名を控えたのか「都賀留三郡史」としていましたが。)をメインテーマにそれをめぐる殺人事件を描いています。
 「東日流外三郡誌」とは、五所川原市の民家で突然「発見」された古文書のこと。いわゆる神武東征を古事記とは逆に長髄彦(ナガスネヒコ)の側から描き、神武帝に追われた長髄彦が畿内から津軽に落ち延びてそこの土着の民族と同化し「荒羽吐(アラハバキ)」という王家を打ち立てたという内容。その後勢力を拡大して一時は大和を支配した(孝謙天皇は荒羽吐の一派なんだそうです。)時期もあったりしたのち、十三湊を支配した安藤氏に至って大繁栄を謳歌していたところ、1340年ころの大津波で十三湊は崩壊したとされています。

 三内丸山遺跡からも分かるとおり古代の北東北は今よりはるかに温暖で住みやすかったし、神武東征により畿内を追われた土着の民族が存在したのも確かだろうし、それが東北に落ち延びたというのも十分にあり得るお話。ただ、そもそも元となった古文書の発見経緯がメチャクチャ怪しい(民家の工事中に屋根裏から落ちてきたそうです。)上に、細かい点で史実と矛盾する(例えば十三湊に大津波があった形跡が見当たらない、当時は存在しないはずの単語(冥王星など。)が書かれているなど。)といった点から、この東日流外三郡誌はかなり眉唾なシロモノとされています。でも後に、これをもとにして北津軽郡市浦村が「市浦村史 資料編」を刊行しちゃったものだから、大騒ぎになった次第。
 こんな「偽書」を村の正史として扱うとは何事だ!というわけですね。

 小説の中ではこの東日流外三郡誌に加えて竹内文書なんかも取り上げられているわけですが、こちらは東日流外三郡誌以上に眉唾というかもはや噴飯ものなストーリーでして。
 ただ、単に「噴飯もの」で済ませればいいのに、こちらの方は戦前には国家から弾圧されて文書が焼失されたりしたものだから、それはそれでいただけないお話です。

 それをメシのタネにしている学者先生や研究者が口角泡して喧々諤々の議論をする程度ならともかく、それに国や地方行政など公的機関が深入りすると碌なことがないなぁってのが読後の感想でございました。

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